管理費や修繕積立金はマンションの管理や修繕を行う上で、最も重要な資金源であり、納入は区分所有者の基本的な義務です。

管理費や修繕積立金の滞納額が増えれば、マンションの管理・運営に重大な悪影響を及ぼす可能性があり、公正・公平の観点からも放置できません。

平成28年3月のマンション標準管理規約(国土交通省が作成する管理規約のモデル)の改正で、「管理組合は、納付すべき金額を納付しない組合員に対し、督促を行うなど、必要な措置を講ずるものとする。」という条文が追加され、「管理費等の滞納者に対する必要な措置を講じることは、管理組合(理事長)の最も重要な職務の一つである(標準管理規約コメント)」と位置づけられました。

管理会社に出納業務を委託しているマンションでは、管理委託契約上、基本的な督促(電話、訪問、郵便など)は行ってもらえますが、それでも支払われない場合は、管理組合自らが行動を起こすしかありません。

とはいえ、管理費等を滞納している専有部分の居住者が賃借人だったり、区分所有者が長期不在で居場所がわからないなどの例もあり、管理組合だけでは回収が困難なこともあります。
当センターでは管理費等の滞納問題や債権回収に詳しい専門家(顧問弁護士)による無料相談を実施しています。

管理費などは5年で時効(早期の対策が必要)

通常、債権の時効は10年ですが、管理費等の場合は5年で時効になります。
時効の中断事由としては、債権者(管理組合)の請求、債務者(滞納者)の承認などがありますが、例えば、内容証明郵便などで催告を行った場合でも、滞納者が承認(一部の支払いなどの約束)をしない限り、6ケ月以内に裁判上の手続きをとらないと時効は中断しません。

そもそも管理費等の滞納を5年も放置すること自体が問題ですが、滞納額が増えるほど回収が困難になるといわれており、とくに自主管理のマンションでは、1回、2回の滞納であっても注意が必要です。

また、マンションのリフォーム融資などを行っている住宅金融支援機構は、修繕積立金の滞納額が10%以内でないと融資できないことになっています。一定規模以上のマンションで滞納額が1割を超えることは稀だと思われますが、小規模のマンションでは十分にあり得ることです。

滞納を予防するためには

管理会社が出納業務を行っている場合は、通常の督促(電話、訪問、文書など)は行ってくれますし、月次報告で報告されるので、比較的対応しやすいのですが、自主管理の場合は、会計担当者など一部の人しか滞納状況を把握しておらず、同じマンションに住む人に督促をすることがはばかられ、対応が後手に回りがちです。

前述のとおり、滞納額が増えるほど回収は難しくなるので、管理規約などで、「複数月の滞納が発生した場合には、理事会が督促を行う」などのルールを明確化しておくことが重要です。
また、滞納抑止の観点から、遅延損害金を付加して徴収することを明記することも有効です。民法上の法定利率は5%となっており、規約に定めておかなくても5%までは付加することができますが、管理費等の遅延損害金は利息制限法の適用を受けないので、比較的高率(15%前後)の遅延損害金を設定している管理組合もあります。

滞納管理費の回収方法

管理組合が万全な滞納対策を講じても、滞納は起こりえます。
同じマンションに住む者として、最初から訴訟などの極端な措置をとることは得策とはいえませんが、通常の督促(電話、訪問、文書など)を行っても回収できない場合は、段階ごとに、以下のような回収方法が考えられます。

1. 内容証明郵便

配達証明書付の内容証明郵便を送り、一定の期限までに納付の意思を示さなければ、法的手段をとることなどを伝えます。当センターでは、顧問弁護士が内容証明郵便の作成をお手伝いしています。

2. 民事調停

調停は、裁判によって勝訴・敗訴を決めるのではなく、話し合いによってお互いが合意することを基本としています。手続きが簡単で、手数料も高くありませんが、出頭義務がないため、滞納者が出席しなければ意味がありません。通常の督促や内容証明によっても支払に応じなかった滞納者が民事調停に応じるとは考えにくいため、結局は訴訟になるケースが多いといわれています。

3. 支払督促

支払督促は書類審査だけなので、裁判所に行く必要がなく、受け取った側(滞納者)が答弁書でそれを認めれば勝訴判決と同じ効果があります。ただし、答弁書に支払猶予や分割支払を求める内容があると「異議」とみなされ、その場合、法廷での訴訟に自動的に移行します。支払督促は手間やお金があまりかからないため、回収のノウハウ本などでも推奨していますが、民事調停と同様に、実際には通常訴訟に移行することが多いようです。

4. 少額訴訟

少額訴訟は、1回の期日で審理を終えて判決することを原則としており、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に限り利用することができます。審議に時間がかからず、費用が安いメリットはありますが、理事長の出席が必要となり、滞納者が通常訴訟を求めた場合や所在不明の場合は、通常の訴訟に移ることになります。

5. 民事訴訟

公開の法廷で審理が行われます。管理組合が訴訟を提起しても、裁判所は和解を呼びかける場合が多いようですが、和解の内容が調書に記載されれば、確定判決と同じ効果があります。したがって、記載された内容の支払いを怠ると、財産に対する強制執行ができるという点で実益があります。しかし、訴訟となれば費用もかかりますので、まずは専門家にご相談されることをお勧めします。

6. 競売請求

区分所有法第59条には「ある区分所有者が他の区分所有者の共同の利益を著しく障害し、他の方法によっては障害の除去が出来ない場合には、管理組合は、その区分所有者が所有する区分所有建物(敷地利用権を含む)の競売を請求できる」とあります。
競売請求は「最後の手段」であり、少額の滞納で認められることはありません。滞納が長期間に渡って多額となり、滞納者に対して管理費等の支払請求訴訟を提起し、強制執行を試みたものの無剰余取消がなされた場合など、他に採り得る手段をすべて尽くした場合に認められることがあります。

ただし、59条による競売代金は、管理組合が裁判所に納めた予納金の返還や抵当権者への配当に充てられるため、競売代金から管理費等の回収をすることはできず、区分所有法第8条の規定に基づき、競売によって区分所有権を新たに得た者から回収することになります。