マンションの一括受電 導入の決議無効の判決

マンションの一括受電とは、マンション全体が電力会社と高圧電力契約を行い、居住者に低圧に変換して供給するものです。各戸ごとの契約からマンション一括での契約に変更することにより、電気料金を削減できるとされ、経済産業省の推計では、60万戸(部屋数ベース)で導入しているようです。

一括受電の導入は、区分所有法の「共用部分の変更」にあたり、導入には特別決議(組合員数及び議決権数の4分の3以上)の賛成が必要ですが、各戸に電力を供給するためにはスマートメータを設置などが必要になるため、実質的には区分所有者全員の承諾がないと導入することはできません。

裁判となったケースは、札幌市のマンション(544戸)の管理組合が2014年から2015年にかけて、北海道電力から一括受電するため、各住民に従来の電気契約の解除を義務づける決議を行ったものの、住民の2人が反対して実現せず、別の住民が低額の電気を導入できなかったとして損害賠償を求めたものです。

札幌地裁の一審、札幌高裁の二審では、「共用部分の変更および管理に関して集会(総会)決議された以上、反対者も決議に従うのが区分所有建物の当然の理である。」「低廉な電気料金の利益を享受できなかったとすれば、被告らは区分所有者または居住者の権利または利益を侵害したものとして、不法行為による損害賠償請求権に基づいて差額の電気料金を賠償すべきである」とし、導入に賛成する住民の勝訴となりました。

しかし、反対者側の上告による最高裁判決は、「個々の住民の契約解除は専有部分の使用に関する事項であり、共用部分の管理や変更ではない。」「総会決議は共有部分に関する事項を決定するものであって、個人の専有部分について効力を持つものではない」とし、地裁、高裁の判決を破棄、原告(導入反対者)の逆転勝訴が確定したのです。

区分所有法はもとより、マンションの規約は「総会決議の順守義務」を規定しているため、一括受電に関しても、導入の総会決議がなされた以上は反対者もそれに従わなければならない」というのが従来の考え方であり、判決はある意味で衝撃的でした。今回の最高裁判決は、「共用部分は組合管理、専有部分は所有者管理」という原則を改めて突き付けたといえるでしょう。

電力の自由化によって、マンションの居住者も様々なサービスを選択できるようになり、一括受電導入のハードルはさらに高くなったと考えられます。

いずれにせよ、マンションの管理組合は、共用部分と専有部分の線引きをはっきりさせ、専有部分の管理に関して過度に介入しないという姿勢がますます重要になると思われます。