1人反対で解体できないマンション

朝日新聞が「負動産時代」という特集を組んでいます。バブル時代に売り出されたリゾートマンションが10万円で売り出され、管理費負担に悩んでいるケースなどが紹介されてきましたが、都市部の老朽化マンションでも「管理不全」「所有者不明」等々、様々な問題が深刻化してます。

8月18日、「ツタ覆う老朽マンション、解体できず 1人反対で暗礁」という記事が掲載されました。「埼玉県坂戸市にツタに覆われ外壁が黒ずんでいる異様な外観のマンションがあり、階段は錆びて崩れそう。所有者の多くは解体して更地で売りたいが、反対する所有者がいて、できずにいる」。反対している所有者は「一室を事務所として使用しており、ローンは完済しているのでここだとタダ。退去すれば部屋を借りなければならず、お金がかかる」と主張しているとのことです。

区分所有法上、分譲マンションの建替えは「区分所有者及び議決権の各5分の4以上の多数」で可能ですが、敷地の売却は区分所有法を離れ、民法上の「共有物の処分」に当たるため、原則、全員の同意が必要です。

とはいえ、老朽化したマンションがいつまでも除去できなければ、周辺住民どの生活が脅かされることになるため、平成26年6月に、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律(建替え円滑化法)」が改正され、マンションの敷地を売却するための特例が創設されました(マンション敷地売却制度)。これにより、行政が耐震性不足と認定したマンション(要除却認定マンション)については、区分所有者、議決権および敷地利用権の持分の価格の各5分の4以上の多数の賛成で売却が可能になっています。(問題のマンションは、築40年ということで、旧耐震基準(昭和56年6月1日以前)で建てられたと考えられ、耐震性不足の可能性もありますが、記事の文面からは判断できません。)

そもそも、マンションの建替え自体、平成25年時点で全国で200数十件しか成功例がなく、実質的には困難とされていますが、マンションが老朽化して住めなくなれば、建替えるか、解体するしかありません。

戸建て住宅では、所有者の死亡などで適切な管理が行われず放置された「空き家」がすでに社会問題化しています。マンションでも同様の問題が深刻化するのは時間の問題とされ、建替えや売却要件の緩和など法整備が検討されています。

記事のマンションには、分譲当初から正式な管理組合がなかったようですが、管理不全に陥るマンションの多くは管理組合が機能しておらず、その原因は住民の無関心にあります。

マンションの耐用年数がどの程度かという本質的な問題はあるものの、適切な修繕を行うなど、きちんと管理されたマンションの寿命が長くなることは間違いありません。現状で建替えが難しい以上、マンションを健全な状態で長く使うことが管理組合にとって最大の課題といえます。